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東京地方裁判所 昭和56年(ワ)633号 判決 1981年8月28日

原告 日本住宅公団

右代表者理事 堺徳吾

右訴訟代理人弁護士 大橋弘利

右訴訟代理人 岡村長義

<ほか二名>

被告 市川順一

主文

一  被告は原告に対し、昭和五三年七月一日から昭和五三年八月三一日までは一か月につき金二万一三八〇円、昭和五三年九月一日から昭和五五年三月三一日までは一か月につき金二万六二八〇円、昭和五五年四月一日から昭和五六年一月三一日までは一か月につき金二万七四七〇円の割合による金員及び右各月分について、各当該月の翌月一日から各完済に至るまで、金一〇〇円につき一日金四銭の割合による金員を支払え。

二  被告は原告に対し、昭和五六年二月一日から訴外行木泰明が別紙物件目録記載の建物明渡しずみに至るまで、一か月につき金四万一二〇五円の割合による金員を支払え。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文第一ないし第三項同旨の判決並びに仮執行の宣言。

二  被告

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  原告は分離前相被告行木泰明との間に昭和四四年二月四日、原告所有にかかる別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を行木泰明に対し賃貸する旨の契約を締結した。

2  右賃貸借契約の主な内容は次のとおりであった。

(一) 期間 昭和四四年二月九日から起算して一年。但し、当事者双方又はその一方から何らの申出がないときは、同一条件で一年間更新されたものとし、以後も同様とする。

(二) 行木泰明は家賃一か月一万九〇〇〇円及び毎月原告の定める額の共益費の合計額(以下「家賃等」という。)を毎月末日までに支払う。

(三) 原告は、経済事情の変動に伴い必要が生じたとき、又は原告の賃貸している住宅相互間における家賃の均衡上必要があるときは、家賃の額を増加することができる。

(四) 期間が一か月に満たないときの家賃等は、一か月を三〇日とした日割計算により算出し、一〇円未満の端数は四捨五入する。

(五) 行木泰明が家賃等の支払を遅延したときは、遅延した額について、金一〇〇円につき一日金四銭の割合により算出した遅延損害金を支払う。

(六) 行木泰明が家賃等の支払を三か月以上滞納したときは、原告は催告を要せずに契約を解除することができる。

(七) 契約解除後に行木泰明が本件建物から退去しないときは、契約解除の日の翌日から本件建物明渡しずみまで家賃等相当額の一・五倍の損害金を原告に支払う。

3  被告は原告に対し、昭和四四年二月四日、行木泰明の原告に対する一切の債務について、連帯保証人として行木泰明と連帯して履行の責を負う旨約した。

4  右2記載の家賃は、その後物価の上昇その他経済事情の変動に伴い低額に過ぎて不相当となり、かつ原告の賃貸している住宅相互間の家賃に著しい不均衡を生ずるに至った。

よって、原告は行木泰明に対し、昭和五三年四月七日ごろ到達の書面をもって、右家賃を昭和五三年九月以降一か月金二万三九〇〇円に増額する旨通知した。

また共益費についても原告は毎月の額を昭和五三年七月一日から昭和五五年三月三一日までは金二三八〇円、昭和五五年四月一日以降は金三五七〇円と定め、支払期日までに行木泰明に通知した。

5  行木泰明は昭和五三年七月以降の家賃等の支払を怠っているため、原告は契約の定めに基づき、行木泰明に対し、昭和五六年一月三一日送達の本件訴状をもって前記賃貸借契約を解除する旨の意思表示をした。

6  よって、原告は被告に対し、連帯保証契約に基づき、昭和五三年七月一日から昭和五三年八月三一日までは一か月につき金二万一三八〇円、昭和五三年九月一日から昭和五五年三月三一日までは一か月につき金二万六二八〇円、昭和五五年四月一日から昭和五六年一月三一日までは一か月につき金二万七四七〇円の割合による家賃等及び右各月分について、各当該月の翌月一日から各完済に至るまでの間金一〇〇円につき一日金四銭の割合による遅延損害金並びに賃貸借契約解除の日の翌日である昭和五六年二月一日から行木泰明が本件建物明渡ずみに至るまで一か月につき金四万一二〇五円の割合による損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する認否

1  請求原因第1項ないし第3項の事実は認める。

2  同第4項の事実は不知。

3  同第5項のうち、行木泰明が家賃等の支払を怠っている事実は不知。賃貸借契約解除の効力は争う。

4  同第6項は争う。

三  被告の主張

1  原告と行木泰明との間における本件建物の賃貸借の存続期間は、昭和四四年二月九日から一年間であり、以後当事者双方又はその一方から何らの申出がないときは、右契約は更に同一条件で一年間更新されるとの約定であるところ、保証人の責任は当初の賃貸借契約期間の経過により消滅し、更新後に及ばない。

2  被告は、本件訴状の受領によりはじめて家賃等の増額の通知及び賃借人行木泰明の家賃等不払の事実を知ったものであって、従前行木泰明から一度として右事実の連絡を受けたこともなく、他方、原告からも家賃等の増額の通知又は家賃等支払の催告を受けたこともなかったものである。右経緯によれば、本件は賃借人の不誠意と賃貸人の放恣な態度によって招来した結果にほかならないというべきであるから、被告は昭和五六年四月二一日の本件口頭弁論期日において本件連帯保証契約を解約する旨の意思表示をした。したがって右解約以降の原告の請求は理由がない。

四  被告の主張に対する認否

被告の主張第1項及び第2項はすべて争う。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第1項ないし第3項の事実は当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、請求原因第4項及び第5項の事実を認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二  被告の主張1について

本件賃貸借契約において当初の契約期間を経過しても期間満了前に当事者双方又は一方から何ら異議の申出がなければ同一条件で更新される旨の約定となっていることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、当初の一年間の期間満了前に当事者の双方又は一方から何ら異議の申出もなく右契約が更新され、以後原告が本件訴状をもって契約を解除する旨の意思表示をした昭和五六年一月三一日まで毎年更新されてきたこと、原告と被告との間の連帯保証契約には特に期間の定めはなく、賃貸借契約更新後は被告は連帯保証人の責を免れるとの明示の文言はないことが認められる。

右の事実によれば、原告と行木泰明との間における賃貸借契約は、更新されることを当然の前提としており、現実にその後、毎年当事者双方から何らの異議の申出もなく、同一条件で更新されてきたものであって、当初の契約と更新後の契約との間には何ら異なるところがなく、同一性を失っていないものと解せられる。また被告においても賃貸借契約が一年という短期間で終了するものではなく、当事者から異議の申出がなければ更新されるものであり、かつ更新後も保証人としての責を負うことを承知して連帯保証人となったものと認められる。したがって、被告は当初の契約のみならず、これと同一性ありと解すべき更新後の契約についても賃借人たる行木泰明と連帯して履行の責任を負うといわなければならない。よってこの点についての被告の主張は理由がない。

三  被告の主張2について

本件のような賃貸借契約において、保証期間の定めのない保証人が付されている場合、保証人は賃借人が著しく賃料債務の履行を怠り、かつ保証の当時予見できなかった資産状態の悪化があって将来保証人の責任が著しく増大することが予想されるにもかかわらず、賃貸人が賃貸借の解除等の処置を講じないときは、保証人は将来に向って保証契約を解除することができるものと解される。

《証拠省略》によれば、本件建物を管理する原告東京支社東京東営業所では多数の賃貸住宅を管理しているところ、近年同営業所管内で賃料を滞納する事案が急増し、少数の職員でその事務を遂行していること、原告は賃借人が賃料を滞納した場合においても、その公共的性格から直ちに明渡を求めるのではなく、督促を重ね、それでも賃料の支払に応じない場合にはじめて訴訟等の手段に移行するとの方針をとっていること、本件でも行木泰明が賃料を滞納しはじめた昭和五三年一一月下旬から昭和五六年一月中旬まで訪問督促を計一四回文書による督促を計四回同人に対し、行っていることが認められ、右認定に反する証拠はない。

右の事実によれば、原告は本件建物についての賃料の滞納を徒らに放置したものではなく、また滞納の事実があり、将来も履行されないことが確実であることを知りながら賃貸借をことさら継続させたものでもないと認めるのが相当である。よって、被告の保証契約の解約の申入れはその要件を欠き無効というべきであるから、この点についての被告の主張は理由がない。

四  以上の事実によれば、原告の請求はいずれも理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を、仮執行の宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 吉野孝義)

<以下省略>

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